ALS患者の介護時間「1日20時間」の仮義務付け決定を得る - 芝野友樹弁護士

「やったー。」と思わず叫びたくなる決定がなされた。9月27日のことである。昨年9月に,人工呼吸器を付けて生活しているALS(筋萎縮性側索硬化症)の和歌山市の男性(75)が24時間分の介護給付を求めて,和歌山地裁に行政訴訟を提起していた裁判において,同時に申し立てていた裁判の結果がでるまでの仮の24時間分の介護給付申立について,同裁判所が,介護時間を1日20時間仮に義務付けることを決定したことだ。これは,現在の12時間とする介護時間に比べると8時間増となる画期的な内容であった。また,公的介護サービスの提供時間をめぐって自治体に仮の義務付けが出されたのは全国初という。
 しかし,介護サービスを提供する和歌山市は,この決定を不服として即時抗告したことから男性側も即時抗告へ。審理が大阪高等裁判所で継続されることになった。仮の義務付けは,決定が確定しないと実施されず,仮の義務付けも宙に浮くことに。
 仮の義務づけは,取り返しがつかない損害を避けるため,判決が確定するまでの早期救済措置として裁判所が仮に命じる制度である。それだけに,1日も早い実施が望まれるのに,決定が確定しないと実施に至らないのはおかしい,と思うのは私だけでしょうか。
 決定の詳細や問題点について,この男性の代理人(複数代理人の一人)をしている当事務所の芝野友樹弁護士に聞きました。

畑中 即,決定の内容で実施されないのは残念ですが,仮の義務付けが20時間も認められたこと,まずは,おめでとうございます。
芝野 私としても思わず拍手しそうになりましたが,何よりも男性の奥さんが喜びをあらわにされておられました。よかったです。
畑中 日々介護を強いられている奥さんだからこそ,でしょうね。
芝野 介護時間が,求めていた24時間とまではいきませんでしたが,8時間増えて20時間ですから,奥さんの負担は,随分,軽減さ  れることになりますからね。
畑中 ALSは進行性の難病でしょう。
芝野 そうです。脳から筋肉へ指令を伝える神経に障害が生じ,手足などの筋肉がやせて力がなくなっていく病気で,病状が進むと食事や呼吸ができなくなります。男性は,人工呼吸器なしでは呼吸できない状態になっています。
畑中 感覚や知性には問題がないのでしたね。
芝野 そうです。痛みやかゆみは感じます。しかし,自分で身体を動かしてかゆいところを掻いたりすることさえできないのです。
畑中 それは大変。
芝野 もっとも危険なのは,痰を吐いたり唾液を飲み込むことができないことです。これを,きちんと吸引しないと呼吸困難に陥ったり肺炎の原因になりますから,目が離せません。
畑中 だから,24時間の介護が必要だと。
芝野 その点,裁判所も,「現状では男性の生命や身体に重大な危険が生じる可能性」があり,「男性はほぼ常時,介護者がそばに付き添い,見守りを含めた介護サービスが必要な状態」であると認定しました。
畑中 「仮」付けを認めたことについては。
芝野 裁判所は,「同居する妻の健康状態などを鑑みると,緊急の必要性がある」としました。
畑中 奥さんは,確かご高齢でしたね。
芝野 73歳です。この高齢で,ずっとそばについて介護すること自体に不安があります。
畑中 ですね。
芝野 それを,和歌山市は,「仮の義務付けの必要性はない」などとして,裁判所の決定を不服とする即時抗告をしたのです。
畑中 えっ,仮の義務付けの必要性はないと言うのですか。それはひどい。
芝野 この決定は,確定しなければ効力が発揮しません。制度としても問題があります。仮の義務付けは,緊急性があるから認められる制度です。だから,認められた場合には,即,実施できるような制度設計にしてあるべきです。それを,実質,先に引き延ばすことができる制度にも問題があるのです。
畑中 制度は,そうであるとしても,緊急性があるとして認める仮の義務付けだから,決定された場合には,自治体としては,それに従うべきだと思いますよ,私としては。
芝野 同感です。この決定も,申し立ててから1年が経過してなされました。申し立てたときには,男性2名だったのですが,1名は,この間に亡くなられてしまいました。男性らにとっては命にかかわることですから,なおさらです。
畑中 冷たい和歌山市に負けないようがんばって下さい。
芝野 こちらとしても即時抗告し,申立どおりの24時間介護の必要性を主張してがんばっています。
畑中 ありがとうございました。
                                           (畑中正好記)

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