債権法改正のポイント

2020年4月1日から、「民法の一部を改正する法律」が施行され、新しいルールが導入されています。以下では、よく問題となる場面について要点を解説しますので、参考にして下さい。

1 保証の契約のルールが大きく変わりました。

皆様も親、兄弟、さらには他人から保証人になってほしいと頼まれることがあると思います。保証にかかる契約には、保証契約連帯保証契約とがあります。

これまで極度額の定めのない保証契約を根保証、例えば、「賃貸借契約から生じる一切の債務について」連帯保証するという内容の賃貸借契約がほとんどでした。しかし、これからは、根保証契約でも、個人(会社などの法人は含まれない)が保証人となる場合には、「極度額」を定めなければ、保証契約自体が無効になります。例えば、「家賃の24ヶ月分相当額を極度額とする」、「金1000万円を限度とする。」などです。

また、個人が保証人となる場合、保証人が破産したとき、また、主債務又は保証人が亡くなったときなどは、その後に発生する主債務は保証しなくてもよくなりました。

また、個人が事業用の融資の保証人となる場合、公証人による保証意思の確認をしなければなりません。その事業をよく知らない家族、親戚、あるいは知人・友人が安易に保証人にならないようにするためです。

保証人となるというのは、人生を左右しかねない重大な問題ですので、十分保証の内容を理解して、場合によっては、保証人になる前に当事務所にご相談下さい。

2 賃貸借契約のいろいろなルールが明確化されました。

借家をして賃借人が賃貸人に明け渡す際に原状回復する必要があります。どこまで原状回復すればいいのかは双方の間で揉めることが多々あります。

まず、賃借人は、賃借物を受け取った後に生じた損傷については原状回復義務を負うこと、及び通常損耗や経年劣化については原状回復義務を負わないこと、はこれまで民法上明らかではありませんでしたが、民法に明記されました。

また、敷金は、「いかなる名目によるかを問わず、賃料債務その他の賃貸借に基づいて生ずる賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務を担保する目的で、賃借人が賃貸人に交付する金銭」とされます。この敷金は、①賃貸借契約が終了して賃借物が返還された時点で賃借人に返還されますが、②その返還金額は、賃借人が賃貸人に差し入れた敷金の金額からそれまでに生じた金銭債務の金額を控除した残額とされます。

どの範囲・程度まで賃借人が原状回復義務を負うかについては、借家など賃借物件の賃貸当時と明渡当時の状態を把握するのが重要です。入居時と退去時に借家の状態を賃借人と賃貸人と一緒に確認するなど、賃借人・賃貸人のいずれになっても、その確認を写真やチェックシートなどで記録するように注意しておいて下さい。

当事務所は、原状回復問題など賃貸借契約をめぐるさまざまな問題を多数扱っており、適切な助言・解決策をご提案しますので、まずは相談下さい。

3 売買契約のルールが多様化しました。

物を売ったり買ったりしたときに、お金を払ってくれなかったり、不良品だったり、思っていたのと違っていたりして、契約の内容どおりに履行されないことがあります。こんな場合に、これまでは損害賠償請求、契約の解除ができるだけでしたが、さらに修補・代替物の引渡し・代金の減額ができるようになりました。

また、契約を解除するには、契約を履行しない相手方に責任があることが必要でしたが、その責任がなくても相手方は契約を解除できるようになりました。ただし、履行を催促して相手方が履行しない場合、相手方の債務の不履行がその契約及び取引上の社会通念に照らして軽微であるときは解除が認められないことが明記されました。

他方、催告無しで契約を解除できる場合の要件が明記されました。債務の履行が全部不能であれば、契約全部の無催告解除が可能です。また、債務の履行が一部不能の場合、契約の一部について、無催告で解除でき、また、残存部分では契約の目的を達することができなければ、契約全部を無催告で解除できます。また、債務者が、債務の全部を履行拒絶している場合は、契約全部を無催告で解除できます。また、債務者が債務の一部の履行を拒絶している場合は、契約の一部を無催告で解除できます。また、債務者がその債務の履行をせず、債権者が催告をしても契約をした目的を達するのに足りる履行がされる見込みがないことが 明らかであるときは無催告で解除できます。

相手方が契約通りに契約を履行しない場合というのは、さまざまな状況が考えられますので、契約したけど契約通りに履行されていないという状況になれば、当事務所にご相談下さい。適切な助言・解決策をご提案します。

4 消費貸借契約に書面が必要となりました。

これまでは、金銭等の目的物が借主に交付される消費貸借契約は、当事者間の合意だけで成立していましたが、安易な契約の成立を防ぐために、書面で契約することが必要となりました。契約成立後、目的物が不要となる場合もあるので、消費貸借契約の借主は、目的物を受け取る前であれば、契約の解除が出来るようになりました。借主は、返還期限の有無にかかわらず、いつでも目的物を返還できるようになり、また、これにより貸主に損害が生じれば、貸主は借主に損害の賠償を請求できことが明記されました。

5 損害賠償請求権の権利を行使できる期間が伸張されました。

交通事故や暴行されて怪我をしても加害者に対していつまでも請求できるわけではありません。これらの不法行為や病院の治療ミスなど契約の義務の履行を怠った場合などの債務不履行において、いずれの責任を追及する場合でも、損害賠償請求権の時効消滅期間は、損害及び加害者を知った時(権利を行使することができることを知った時)から3年であったのが、5年となり、不法行為の時(権利を行使することができる時)から20年となりました。これまでは、不法行為は、20年の除斥期間で画一的に時の経過で消滅していましたが、時効期間となり時効の更新や中断が生じるようになりました。また、債務不履行は、10年の時効期間でしたが、20年に伸長されました。

交通事故の場合の損害賠償請求についてはこちら

6 中間控除利率及び遅延損害金が年3%に引き下げられ、賠償額は高くなりますが、遅延損害金は減少します。

利息が発生する債権について当事者が利率を定めなかった場合に適用される法定利率が年5%から年3%に引き下げられました。損害賠償の算定に当たって、将来において取得すべき利益を現在価値に換算するため中間利息を控除しますが、この控除に法定利率が使われます。法定利率が下げられたことで、控除分が減少するので、賠償額が従来より高くなります。また、加害者が損害賠償の支払いを怠った場合には、合意がない限り、法定利率を基に遅延損害金が定まります。法定利率が下げられたことで、逸失利益は金額が増加しますが、遅延損害金は金額が減少します。 

7 定型約款の変更が有効になるためのルールが明確化されました。

定型約款というのは、運送・証券取引・保険・旅行・通信販売など、一般不特定多数の顧客との取引において、企業が大量の契約を迅速かつ効率的に締結・処理するために、予め条件を細かく定めた約款をいいます。定型約款が契約の内容となるためには、

①当事者の間で定型約款を契約の内容とすることを合意すること、あるいは、
②取引を現実に行う際に、定型約款の内容を顧客に表示すること、が必要です。
③上記①ないし②が認められると顧客が定型約款の条項を具体的に知らなくとも、個別の条項について合意したものと見なされます。

この定型約款の変更が有効になるためには、①変更が顧客の一般の利益に合致する場合②変更が契約の目的に反せず、かつ、変更に係る諸事情(必要性、相当性、変更を予定する条項の有無・内容、顧客に与える影響、影響の軽減措置の有無など)に照らし合理的な場合、であることが必要です。顧客にとって必ずしも利益にならない変更については、事前にインターネットなどで周知する必要があります。